セール&リースバックは簡単な仕組みで資金調達ができる方法であり、資金繰りを考える企業にとって効果的な手段のひとつです。
自社の資産を売却することで資金を手に入れることができ、売却後はその資産をリース契約で使い続けることができるという点が大きな特徴となっています。
いざというときに会社が保有する資産を売却することでまとまった大きな額の現金を得ることができること、売却後もリース契約でそれを借りることによって、リース代金はかかるものの、今までの環境と同じ状態で事業経営を続けることができるということがメリットです。
ここでは、セール&リースバックについて詳しく解説していきます。
今までと経営環境を変えることなく、まとまった資金調達を行いたいという場合に最適な方法となっていますので、ぜひ参考にしてください。
セール&リースバックとは
セール&リースバックとは、自社で保有している不動産や機械設備、車両などの資産を売却してまとまった現金を調達しつつ、売却したそれらの資産をリース契約して利用しつづける方法のことをいいます。
経営において資金調達は重要ですが、このセール&リースバックでは、融資など外部から資金調達するのではなく、自社の内部からお金を生み出せるということが特徴となっています。
売却できる資産は多岐にわたり、店舗や自社ビルなどの不動産、運送や営業に使用している社用車、機械設備など様々なものが対象となります。
しかし、老朽化がすすんでいて資産価値がないものや、売却価格を上回るローンが残っているものについては売却できない場合もありますので注意が必要です。
ただ、譲渡先との交渉で「リース料+ロ―ンの残債分を支払う」という合意ができれば、オーバーローンの状態でも資産を売却できる可能性がありますので交渉してみると良いでしょう。
セール&リースバックの仕組み
セール&リースバックでは、事業会社(セール&リースバックを利用する会社)と、リース会社(もしくは金融機関)の間で行われ、その手順は以下のようになっています。
- 事業会社がリース会社に資産を売却
- リース会社が資産購入代金を事業会社に支払う
- 両者間でリース契約を締結し、買い取った資産を事業会社に貸し出す
- 事業会社はリース代金をリース会社に支払う
セール&リースバックの取引では、資産を売却するものの、実質的にはリースを行った企業から金銭の貸付があったと見なされます。
そのため、例外はあるものの、一般的には帳簿上では売却益の計上ではなく、金融取引として処理されることになります。
セール&リースバックの特徴
セール&リースバックではすばやく資金を調達できるだけではなく、そのほかにも様々なメリットがあります。
しかし、メリットだけではなくいくつかのデメリットもありますので、それぞれのメリット・デメリットをよく理解してセール&リースバックを実行するのかを決める必要があります。
セール&リバックのメリット
セール&リバックでは、資金調達ができるというだけではなく、経理の手間を減らすことができる、経費を増やして節税することができるなど、資金面以外のメリットも多くあります。
それではセール&リバックのメリットを詳しくみていきましょう。
経営環境を変えずに資金調達ができる
セール&リースバックでは、経営環境を変えることなく素早く資金調達ができることがメリットとなっています。
例えば営業車を売却したとしても車はそのまま利用することができますし、工場の機器関係もそのまま使用することができるため、企業活動に影響を及ぼすことはありません。
セール&リースバックを活用すると、資産売却でまとまった資金を手に入れつつ、今までと同じ環境で経営を続けることができます。
調達した資金の使用使途が自由
セール&リースバックで得た資金は、借金の返済や新たな設備の購入など、自由な使途に使うことができます。
金融機関から融資を受ける場合は使用使途が制限されている場合が多いのですが、セール&リースバックで調達した資金は自由に使うことができるということがメリットとなっています。
他社に資産売却を知られることがない
セール&リースバックでは資産を売却するものの、その資産をそのまま使い続けることができるため、一見今までと環境がかわりません。
例えば自社ビルを売却したとしても、リース料を支払ってそのままオフィスを使うことができるためオフィス移転費用を節約することができますし、取引先から「自社ビルを売却するということは、資金繰りが苦しいのではないか」といったような不安を抱かれずにすみます。
会社の資産の売却が知られた場合、取引先との関係に影響を及ぼすことがありますが、セール&リースバックを利用した資産売却であれば、取引先企業との関係悪化を防ぐことができます。
保有資産をスリム化することで総資産経常利益率が改善
総資産経常利益率とはROAとも呼ばれ、資産のうちの経常利益の割合を表します。
このROAは金融機関からの融資を受ける際にポイントとなる指標の一つとなっており、この数値が改善すると融資を受けやすくなったり、優遇金利が適用される可能性が高くなります。
経常利益はそのままで、母数となる保有資産の額が少なくなれば、必然的にROAの数値が上がることになり、その結果金融機関からの融資が受けやすくなるというメリットがあります。
リース料は経費に計上できる
セール&リースバックでは、定期的にリース料を支払う必要があります。
そして、このリース料は経営上必要な費用であることから経費に計上することができ、その結果節税効果が期待できます。
経理作業の手間が軽減できる
不動産や車、機器などの資産を保有していると、減価償却費や保険料、固定資産税などのコストが発生します。
また、それらの費用額は一定ではなく変動するという特徴があります。
そのため、資産を保有している場合は毎月の減価償却費を計算や固定資産税の計上など、経理作業の手間がかかるというデメリットがあります。
しかし、セール&リースバックで資産を売却すればこれらのコストの計算や、税務申告をする必要がなくなるため、経理作業量を減らすことができます。
かかるコストが平準化できる
セール&リースバックで資産を売却してリース契約を締結する場合、リース料として一定の金額を継続して支払うことになるため、経費処理が簡単になります。
また、一定の期間においてどれくらいコストがかかるのかという見通しも可能となるため、将来の経営計画を立てやすくなるというメリットもあります。
資産の保有コストを削減できる
会社が保有する資産には様々なものがありますが、土地であれば固定資産税、車両であれば保険料や車検費用、機器であればメンテナンスの費用などがかかってきます。
これらは、資産を保有する限り継続的に支払わなければならない費用ですが、セール&リースバックで資産を売却すれば、これらのコストからは解放されることになります。
リース料は毎月支払う必要があるものの、資産保有のためのコストはゼロにすることができます。
将来資産の買戻しができる
セール&リースバックで売却した資産は、第三者の手に渡るわけではありません。
売却先のリース会社とは毎月リース契約を結んでおり関係が継続しています。
このようなことから、企経営状況が良くなり、潤沢なキャッシュが手元に増えた段階で将来買い戻すことが可能なケースも多くなっています。
金融機関の借入枠が減らない
資金調達の主な手段としては金融機関からの融資が挙げられますが、会社の規模や状態によって融資規模は限定されています。
今後金融機関からのまとまった融資を受けたいと考えている場合は、セール&リースバックを利用することで、融資枠を減らすことなく資金調達を行うことが可能です。
セール&リースバックのデメリット
セール&リースバックでは多くのメリットがありますが、以下のようなデメリットもありますのでよく理解しておく必要があります。
リース料が割高なことが多い
セール&リースバックでは売却した資産を借りて利用するため、リース料を支払う必要があります。
しかし、その費用は一般的な価格よりも高めに設定されていることが多く、約15%ほど割高な価格となっています。
また、リース料には大まかな目安が定められており、1年間にかかるリース料は、資産の売却価格の約10%程度とされています。
例えば社用車を200万で売却してリースする場合は、年間で約20万円のリース料を支払う必要があるということになります。
このように、リース料の目安は事前にわかりますので、セール&リースバックの利用を検討する際にはどれくらいリース料がかかるのかをしっかりと把握し、支払計画を立ててみると良いでしょう。
買取価格が安めである
セール&リースバックでは自社保有の資産を買い取ってもらうことになりますが、その買取価格は市場価格よりも安いことが多くなっています。
例えば不動産の場合は、一般の不動産売却に比べて3割ほど安い価格になることが多いようです。
不動産をリースする場合、借り手側がリース料を支払えなくなったり、不動産の買戻しもできなくなった場合は、買い手側がその不動産を第三者に再販売し、現金化する必要があります。
セール&リースバックでは、リース会社側にそのようなリスクがあることから、処分するかもしれない場合のことを考えて、あらかじめ安い価格で買い取られる仕組みとなっています。
セール&リースバックに向いている企業とは?
セール&リースバックは自社保有の資産を売却することですばやく資金調達ができる手法です。
しかし、割高なリース料を支払わなければならない、売却する価格は市場価格よりも低めであるといったデメリットもありますので、自社がこの方法に向いているのかどうかをよく検討する必要があります。
セール&リースバックの資金調達方法に適しているのは以下のような企業となっています。
価値が大きい資産を保有している企業
セール&リースバックを行う主な目的は資金調達となっているため、必要な資金額とと同等の価値がある資産を保有していることが前提となります。
自社で資産価値が大きいものを保有している場合、セール&リースバックを行うことで資金調達の目的を達成できる可能性が高くなります。
逆に、資産価値が少ないものしかなく、セール&リースバックで希望の資金調達額に届かない場合は、金融機関からの借入やファクタリング、ビジネスローンなどの他の方法も同時に考えたほうが良いでしょう。
資産を完全に手放したくない企業
セール&リースバックでは、いずれ売却した資産を買い取ることを念頭に行われています。
今の時点でどうしても資金調達をする必要があるが、資産を買い戻す余地を残しておきたいという場合はセール&リースバックが最適です。
いったん資金調達を行ったあと、資金に余裕が出た段階で資産を買い戻せる可能性があります。
しかし、場合によっては買戻しができない場合もありますので、最初の契約時に買戻しに関連する条件をよく確認するようにしましょう。
セール&リースバックまとめ
セール&リースバックは自社の資産を売却して資金調達ができること、売却した資産をリース契約で使い続けることができるということが大きなメリットとなっています。
企業経営においては必要なときにスムーズに資金調達ができることが重要となっていますが、会社で資産を保有している場合は、セール&リースバックを利用することで、金融機関に融資申し込みをすることなくすばやく資金調達をすることができます。
セール&リースバックは今までと変わらずに事業を継続しつつ、自社の資産を利用して資金を得られる効果的な方法ですので、資金調達方法を考える際はセール&リースバックを検討してみることをおすすめします。